第44回
Vegan(完全菜食)って何を食べるの?
「えっ、ベジタリアンって、肉も魚も、乳製品もダメなの???」
という悲鳴を上げたのは、この“べジタリアン”という食習慣を、実際に実行し始めた友人に最初に聞いた時です。今から30年数年以上も前のことでした。
彼女は、今から考えると、ベジタリアンとは言え、乳製品や卵は食べていましたので、完全菜食(Vegan)主義者ではなかったようです。
その頃の私は20代中半で、米国の留学から戻ったばかり。米国での食事にすっかり慣れてしまい、食生活から肉や魚を排除するなどまったく考えることはできませんでした。
でも、勧められて読んでみた、渡辺圭著『肉・魚はやめなさいーびっくり!この菜食法』21世紀ブックス・主婦と生活社(初版昭和59年)の中の項目で、いかに肉食を支える不自然な穀物流通や、過剰な肉食が健康に悪影響を与えることなどには共鳴することがたくさんありました。
本の中に掲載されていたレシピの中には、ここ30年以上に渡り、繰り返し、繰り返し作った料理がたくさんあります。
でも、この本や他のレシピを参考に、菜食主義者の友人のために、菜食のお寿司や料理を単発的に作ることはあっても、自分が菜食を熱心に作り楽しむ、という日が来るまでそれから何十年もかかってしまいました。
世の中、つらいこと、悲しいことがたくさんあります。
でも、単純な私は、美味しい食事を作って食べることで、かなりその焦燥感なり絶望感なりを緩和させてきたと思うのです。
ジューシーなトンカツ、炭火で塩梅よく焼き上げた串焼き、自家製の塩鮭やタラコなどなど。日本を離れて暮らしていても、これらは我が家の食卓に欠かせません。
私にとって、現地で入手できる食材で、いかに日本食を家族の食卓に乗せるか、ということが毎日のチャレンジであり、楽しみでもあるのです。
考えようによっては、それをすることで、刹那的ではあるものの、嫌な事や忘れたほうがいいようなことを胃袋にしまってきたような気がします。
でも、食材一つとっても、実はそう簡単ではありません。例えば、南アフリカでは、日本では当然のように入手できる、鶏の皮つき骨抜きもも肉が簡単には見つかりません。ここでは、鶏肉の一番人気は脂肪、皮、骨を取り除いた胸肉で、値段もこの部分が一番高いのです。もも肉は骨付き皮つきが一般的。ある日、高級スーパーでもも肉の骨抜き部分が販売され始めた、と喜んだら、あれ、骨だけでなく皮も外されていました。そうすると、やっぱり、から揚げなどは、味が変わってしまいます。で、鶏のもも肉から骨をいかに上手に取り除くか、という一手間に工夫が生まれるのです。
そんな中、今年に入り、同じダーバンに住む甥が思い立つところがあったようで、突然、完全菜食(Vegan)に食生活を大転換させました。
甥は9月に入ってから我が家で何週間か過ごすことになり、毎日の食事が一挙にVegan食に替わらざるを得なくなったのです。
最初、冒頭のように、「えっ、Veganって、肉だけじゃなくて、魚も卵も乳製品もだめなんだよね?」と、いささか負担にも思ったことは事実です。でも、よくよく考えたら、日本の精進料理とか、南インド出身の友人から教えてもらったインド系の料理とか、エチオピアでの熱心なコプト教の信者たちが食する菜食などに、自分でも結構Vegan食を食べてきたのではないか、と思い始めたのです。
前出の渡辺圭著『肉・魚はやめなさいーびっくり!この菜食法』でも、渡辺さんがこんなことを書いています。
「……私は料理を遊びと心得ているために、アメリカの材料で、どれだけまともな日本料理や中国料理ができるかに挑戦するのが面白く、様々な実験ごっこをしていた」
そうなのです。私にとっても、料理とは楽しい遊びです。それも、遊ぶこことで美味しい食事が出来上がります。これは、自分も家族も友人も楽しめる、というボーナスがついている遊びなのです。
「Vegan、やってやろうじゃないの!」と、意欲が沸いてきたのは、いろいろ枷のある条件でどれだけ美味しいものができるか、という遊び心に火がついたのかもしれません。
【写真1:和食】
さて、せっかくですので、甥のために作ったいくつかもメニューをご紹介しましょう。
【写真1:和食】和風料理、思いの外、簡単でした。
玄米にヒジキ、胡麻、ゆかりを混ぜたもの、人参とゴボウ(乾燥ゴボウを戻して)のキンピラ、秘蔵品納豆、ブロッコリーのマスタードシード炒め、サツマイモと小豆のいとこ煮、ほうれん草、ワカメ、油揚の味噌汁(出汁はこんぶ)
乾燥ゴボウは本当に重宝します。そうそう、秘蔵品の納豆は、日本から戻った時、ダーバンの税関で、「これは何だ」と聞かれ、「腐った大豆」と答えたら、「開けろ」、私が「臭いのよ~」と脅したのにも関わらず、開けろ開けろとしつこいので、もったいぶりながら持ち込んだ納豆を開けたとたん、「うわ~、閉めろ!なんだこのニオイ!」というマンガの一シーンのようなことまでありました。
【写真2:メキシカン】
【写真2:メキシカン】評判がよかったのは、メキシコ料理です。ただし、この時は、チーズを添えたので、甥以外の私たちは、Veganではなく、ベジタリアン食でした。揚げタコスの中身は、黒豆とキドニービーンズをリフライドビーンズで。これは、キドニービーンズを一晩浸して柔らかくし、その後大量の玉ねぎとクミンなどのスパイスで炊き上げたもの。トルティアの代わりにダーバンならではのロティを添えました。グアカモリには旬のレモンをたっぷり。メインには、チリコンカーンならず、チリコン豆腐。セロリ、玉ねぎ、トマトなどがたっぷり入って、深い味わいになりました。
【写真3A:ファラッフェル】【写真3A:ファラッフェル】【写真3B: ファラッフェル2】中東料理のファラッフェルというのは、この揚げたこ焼きみたいなものです。
これは、ひよこ豆(ガルバンゾ―ビーンズ)を一晩浸してから似て、パセリやコリアンダーを入れてクミンで味付け、油で揚げます。これには、ブル―ベリー入りのキャベツのサラダとフモスというやはりヒヨコ豆で作ったペーストを合わせて、トーティヤの代わりにダーバンで簡単に入手できるロティにくるんでいただきました。
【写真3B: ファラッフェル2】卵を使わない、ということは、例えば、フライなどの揚げ物の衣をつける時などに使う溶き卵もダメなわけです。さて、どうするか。これは、リンシードという小さな種をコーヒーミルで粉状にして、水を入れて、粘々の状態にして卵溶液の代わりにしたところ、大成功でした。
【写真4:ブルーベリーマフィン】【写真4:ブルーベリーマフィン】その他にも、バターが乳製品なので使えません。でも、お菓子も食べたいよね、ということで、考えました。ありました、ありました、固形状ココナッツオイルが十分、バターの代わりになりました。甘みも砂糖は使わずに自然なハチミツを使いました。
さあ、これを面倒と思うか、それとも楽しい食への挑戦と取るか。
私は断然、後者です。完全菜食へ全部転換する、ということはいまのところ考えていません。が、毎日の食事に毎回肉や魚を取らなくても、十分美味しい食事が作れることが分かりました。
このVeganへの挑戦、しばらく続きそうです。