小野 晴巳(地球冒険学校準備会顧問)
はじめに
10月中旬に東京で大学時代の同級生で会食会をしました。学科定員25名中男性13名の出席でした。ちなみに私たちの学科は男ばかりで女性はいませんでした。全国に散在している喜寿(77歳)世代の仲間にしてはよく集まったと思います。
この歳になると皆さん酒量はガクンとヘリ、私などは少数派です。話題は「3K」に集中します。「金・健康・家族(孫など)」のことですが、この「3K」は昔から高齢者共通の話題ですから、若い世代は記憶していてもよいかもしれませんね。
この時は珍しく政治の話になりました。総選挙の時期なので「憲法」「経済」「北朝鮮」に関することが多かったです。これも偶然ですが「3K」ですね。
散開後二次会になりA君と同席しました。A君は大学山岳部に所属した山男です。ヒマラヤ遠征も経験し、とくにブータン国に何回も入国している人物です。また某地方電力会社に勤務していました。
なにがキッカケかわかりませんが彼と偶然原発の話になりました。私はこの会報に原発について連載している最中なので、興味をもって次々と聞いてみました。「安全・安心」「経済性」「地域・住民など」「政党・学会・学者」「外国事情」の私見5項目です。
A君は賛成派の観点から意見を述べ、私は批判的な観点から述べましたが、お互いに納得することはありませんでした。ただしケンカすることなく正面から意見を言い合う機会でとても参考になりました。日頃から日本人は対話やディスカッションが少ない民族と思っていますので、率直に話ができて嬉しかったです。再会を期して握手して別れました。では本題に入ります。
1.原発の「安全」「安心」について
私達は普段どんな時にこの「安全・安心」という言葉を使用するでしょうか。たとえば車、パソコン、食品等を購入するときは品質、信頼、アフターサービス、値段等を考えながら購入するでしょう。しかし、原発の「安全・安心」はどうでしょうか。意外と難しいのではないかと思います。私はこのように考えました。
原子炉本体の安全安心(劣化、耐用年数、構造、、、)
放射能の安全安心
核燃料再処理の安全安心(プルサーマル発電・もんじゅの廃炉と研究開発事業等含む)
汚染水処理の安全安心
最終処分場の安全安心
人的資源の安全安心(電力会社等の研修システムマニュアル作成・事故対策、研究開 発・研究者の育成・継続等)
自然災害の安全安心(自信・火山・津波・洪水等)
テロ対策 等々です。
推進派は再稼働や再稼働審査中でもこの「原発の安全安心」はクリアしているので問題ないということで再開を促進します。
らに、推進派は車や飛行機でも100%安全はありえないが乗っているでしょうと主張します。原発も含めてすべての製品に100%安全はありえないといいます。私も直接このたとえ話は何回もききました。
また、科学の進歩には必ずこのような犠牲が伴うともいいます。たしかに、科学の歴史は成功と失敗の繰り返しで発展していますから間違いではありません。
これに対して批判派は車事故や飛行機事故と福島原発事故は比較にならない、事故の規模や避難民の発生など影響力が違う、また「世界一安全な原発」として宣伝しているが、この「世界一」とは何を基準としているのか等反論します。
放射能についても安全安心で対立します。このように推進・反対の両論はあらゆる分野で平行線をたどり、何が正論か真実か専門家でさえ対立していますので、何がなんだかわからなくなります。
さて、私はいままで両論の多数の文献を読んで自分なりに書いてきましたが、今回は参考文献を明らかにして推進・批判論を紹介します。(前回までは研究論文ではないので文献は書きませんでした。質問されればお答えします。)
推進派の本としては櫻井よしこ(評論家)・奈良林直(北大名誉教授)『それでも原発が必要な理由』ワックKK2017年6月1日発行(以下櫻井本とします)、
批判派の本としては新潟日報原発取材班『崩れた原発経済神話』明石書店2017年5月30日発行(新潟日報は新潟県内で発行部数45万部を誇る地方紙で以下新潟本とします)の2冊です。
選んだ理由は発行日が最新で福島原発事故から6年目を経過すれば少しは冷静に考えられ書かれているだろうからです。
ア.櫻井本から紹介します。
第1章は「被災地の復興がなぜ進まないか?」です。その理由としてマスコミの報道姿勢(P24~)、風評被害(P34~)、「1ミリシーベルト神話」を含めた当時の民主党政権の対応のまずさ(P38~)等を指摘します。
第2章は「福島原発事故の徹底検証」です。
原子炉本体は地震に耐えられたが、電源喪失のためメルトダウンを起こした(P50~)。その電源喪失の原因は津波と鉄塔下の盛り土崩落だけではない。非常用復水器を東電員が止めた(P52~)。ベントが遅れたのは東電と政府が原因(P65~)。2012年には事故の教訓をもとに当時の原子力安全・保安院から緊急安全対策の指示が各電力会社にだされている。原発事故を収束させた会社や自衛隊などの対応を含めてこれらのことを丁寧に説明すれば理解が得られる。しかしマスコミも現政府も説明していない。立地地域は戸別訪問で説明しているので地元は再稼働に賛成、説明されていない大多数の国民には理解が得られていない(P85~)。
汚染水処理についてたとえばセシウムですが、福島の汚染水放出基準は、ペットボトルの飲料水より十倍も厳しい。トリチウムを含む汚染水を海に流しても国際社会基準に適合しているので安心です(P92~)。
第3章は「国会事故調査報告書の致命的な欠陥」です。
この報告書は事故後の2012年7月23日に民主党政権時に発表されたものです。これで東電・政府・国会と3つの報告書が揃い、その後の原発論議の基礎になりました。それではこの報告書(以下『』で示す)と櫻井本(以下「」で示す)を紹介していきます。
『地震により1号機の配管など重要な機器の損傷の可能性』に対して「データなどの記録により地震による配管などの損傷はなかったp103~」。『安全弁も一度も作用せず、さらに全電源喪失の悪条件により燃料溶解へと拡大していった』に対して「安全弁は損傷していないし作動するには圧力が上がらないと働かないシステムです。自身ではなく電源や津波の可能性で作動しなかったので原発本体の欠陥ではない」(P104~)。
さらに、注水のタイミングを逃がしたことが水素爆発の原因であり、政府の対応のまずさが大きな原因である(P119~)。
そして、事故の真相究明とフィルター付きペント設置、冷却系の強化、電源確保対策等安全対策をすれば再稼働を推進すべきと強調しています(P132~)。さらに第4章~第9章までありますが今回の安全・安心の観点から略しました。
イ、つぎは新潟本です。
副題に「柏崎刈羽原発から再稼働を問う」とあります。この本は「福島原発事故より安全 神話はかんぜんに崩壊した。しかし、経済神話は事故後も生き続けている。柏崎でも地域 経済活性化のために再稼働を求める意見は根強くある。そこで経済神話の検証をテーマにする」(P14~)ことを基本にしています。
再稼働をめぐっては安全神話とともに経済神話は最重要と考え取り上げました。
目次を見ながらテーマに迫ります。第1部「原発と地域経済」です。
第1章「かすんだ恩恵」として地元100社の調査結果を示しています。
原発停止の影響は67社がない。今まで37年間の間原発の仕事の受注がないのは66社。原発ができたことによる波及効果はないは48社。再稼働すれば売り上げが増えるのは23社。再稼働を望む66社。実情を見ると原発建設期がピークで建設終了後は減ってくる (P40~)。再稼働の波及効果への期待感は高い(P42~)。結論として「原発の恩恵は経済神話であり、再稼働しても地域経済のプラスはかぎられる」と書いています(P48~)。
第2章「検証・経済神話」(P50~92)
柏崎市の原発着工から40年間の経済効果を1970年代人口規模が近かった三条市と新発田市の2市と比較して分析している。
人口は増えたか?
原発建設前と同じ人口で将来は人口減少する。
雇用はうまれたか?
民間従業者は3市ともほぼ同じ推移であるが、ただ原発が一定の雇用を生むのは確か。
しかし、このすべてが柏崎市内者かわからない。原発は装置産業で後は保守管理に関する雇用しか生まれないからである。専門職が要求される。他は非正規職員扱いになる。ただし、2007年の中越沖地震の時は復旧工事によって月8千人を超えた。
波及効果はあったか?
原発停止による柏崎市の経済的損失は「約3400億円」とする試算がある。 2014年商工会議所の依頼で試算した数字である。再稼働派には追い風になる試算だがこの数字にはカラクリがあると言う。本田教授(立命館大)は「柏崎原発が電気を売った数字を含んでいる。東京の東電本社にこの売り上げが計上されるのでそこからどの程度柏崎市に還元しているかによる」と指摘している。
再稼働効果はあるか?
「原発が再稼働すれば原発作業員が増え、街が活気づく」と期待する声が根強い。この説は正しいのか。会田前市長に間くと「そんなことはない」と強く否定した。そこで、原発作業員の人数を2005年にさかのぼって調査した。すると、稼働中は月で4千人前後。原発停止中は8千人前後。作業員数からみると停止中は再稼働を目指して安全対策工事で人数が増え、稼働中は減るという結果になった。
財政は潤ったのか?
原発を抱えている自治体は裕福と思われてきた。国からの電源三法交付金や寄付金や補助金等が入るからである。柏崎市はこの交付金で市道・体育館・文化会館・野球場などの多くの施設を建設した。さらに、固定資産税など原発関連の税収もあった。「おかげでやりたい事業はすぐやれた」と飯塚元市長は懐かしむ。
しかし、財源に恵まれながらも財政が悪化する。このパラドックスは原発関連財源がはらむ危うさにある。柏崎市も例外ではなかった。まず、原発関連の収入は年々減り続ける。公共施設の必要経費は増え続ける。収入が減り支出が増える。このパターンで財政破綻寸前だったのはあの福島原発の双葉町です。
2、今回のまとめ
さてここまで推進派と批判派の両論の本を紹介してきました。安全・安心といっても解釈の仕方ではどのようにでも考える事ができます。
原発事故の原因も地震により原子炉が壊れたという説と津波により壊れたという説があり再稼働における判断にものすごい影響を及ぼします。地震説では原発そのものを未完成構造物として危険性を指摘し反対論になります。津波説では地震でも破壊されない丈夫な構造物として津波対策をすればよいとして推進派になります。
あとがき
何回も言いますが、物事を自分で判断をするには両論を研究してあるいは話を間いて討論して深めることが一番だと思います。原発を考えることは大袈裟ですが日本の在り方を、日本人とはどんな人種なのか等関心を待ついい機会ではないかと自分は思っています。
放射能のこともほかの項目も両論ありますので、これも紹介したいと思いますが、今後どうなりますか。ご意見、ご批判をお聞かせいただければ幸いです。