小野 晴巳(地球冒険学校準備会顧問)
前回はかなり早く賛成・反対・?の視点(論点)をまとめてしまいました。あくまでも私見ですが、この5つの視点はその後のマスコミ報道をみても間違いではないと思っています。そこで、私は前回の視点をもう一度確認して詳しく述べてみたいと思います。そこで、賛成・反対・?の議論又は話題を深めて下されば幸いです。
視点1原発の安全・安心性(安全対策、放射能対策、廃棄物処理、リサイクル、など)
視点2原発の経済性(高い、安いの経済面コスト、維持管理費、経済成長に寄与、など)
視点3原発の地域性(誘致活動、地域活性化、再稼働賛否、原発補助金、など)
視点4原発の利害関係(政党の主張、会社・社員の存続と生活、学会、マスコミ、など)
視点5外国情勢(諸外国の推進国と廃炉国、原発事故後の現状、将来像、など)
以上5つの視点で賛成・反対論をまとめたのが前回でした。確かに、この範囲内で議論が繰り広げられています。又、原発賛成・反対という議論では自分の都合のよい話だけで説得しようとしているように感じています。
例えば、賛成論として、
1の視点「原発の安全は安全規制委員会で審査して、設備工事の強化、津波対策、電源確保、社員教育の徹底等万全を期しています。」
2の視点「原発再稼働により経済成長を促進し優位になり、貿易収支を改善し、電気料金もやすくなります。」
3の視点「原発は地域の収入を増やし生活を豊かにする。雇用を改善し、少子化を防ぎ高齢化対策を充実する。」などメリットを強調します。
一方、その反対論として、
1の視点「安全とは何か、放射能の怖さ、事故の原因と無責任体制、想定外の自然災害、など考えると原発の安全性はありえない。」
2の視点「原発の費用を調査費用、土地整備、交付金、廃炉費、運転費、人件費など総合的に含めると高い。自己費用を含めると天文学的コストになる。」
3の視点「設置地域は恩恵を受けているが、それは時限立法のようなもので、国からの電源三方交付金は年々減少していく仕組みになっている。従って、現状の予算を維持していくには新しい原発建設を続行するしかない。だから、原発1号~原発4号など同じ地域に建設されてきている。
簡単に3つの視点の賛成・反対の意見を公平に書きました。当然ですが事実は何倍も複雑です。それで、原発是非の判断として視点をもう少し詳しく論じたいと思います。
(1)原発は安いか?
―視点2・原発の経済性について考えるー
電力会社は、原発再稼働の理由として燃料費負担が増えて経営が圧迫される、と必ず強調します。また、電気料金の値上げをせざるを得ない、日本の経済の減速・停滞も強調されます。確かにこれらが起きれば日本経済は困ったことになり、避けてほしいです。
しかし、原発のコストをどのように計算しているのか、将来起きる廃炉費用と使用済み核燃料の処理費用をどのように計算しているのか、電力会社の経営内容はどのようになっているのかなど知らないと「はい、そうですか。再稼働に賛成です」と素直になれません。
何故かといえば、電力会社は普通の会社と全く違うからです。(2回目の連載で少し書きました)
決定的に違うのは自分で電気料金を選ぶことができない強制会社で、従うことしかできない特殊法人会社という位置づけだからです。(自由化で選択できるようになりましたが、私のように電力消費量の少ない家庭はほとんど値段も変わらないので選択権など行使しないでしょう。)
また、福島原発事故後に明らかになった原発の全体像は想像以上に複雑で、火力発電とはけた違いの問題点があることでした。
私には手に余る問題ですが、理解する第一歩として原発のコストから始めたいと思います。
(ア)燃料費はいくらか
原発は高いか安いかを判断するとき、一番に思い浮かべるのは燃料費即ち原材料でしょう。石油、石炭、LNGなどですがそれとウラン核燃料を比較するとウラン核燃料は一番安い。
政府発表の2010年版エネルギー白書によりますと原子力5~6円、火力7~8円、水力8~13円の発電コストと試算しています。(福島原発事故前の報告書)
私はこのような政府試算により福島原発事故前まで原発は安いと信じていました。ところが、事故後の様々な書籍を読んでみると原子力の経済学では、発電単価の計算方法はさまざまで絶対基準はないのです。発電単価だけでなく、原子力発電に係る経済性はどのようにでも計算できるようになっているのです。会社の決算報告書のようなわけにはならないようです。
単純に考えて売上高―経費=利益の図式で電力会社の売上高は電気料金です。電気料金は発電安価を計算して私達の電気料金を決定しています。
その発電単価の計算式は
発電単価=(資本費+運転維持費+燃料費+会社費用)+送電電力量としています。
各項目もさらに分析すると運転維持費=人件費+修繕費+業務分担費などとあります。発電単価の計算式では分子の数字が大きければ大きいほど発電単価が高くなります。単価が高ければ高いほど売上高も大きくなり、利益も増える仕組みです。
電力会社は当然人件費も高くするでしょう。燃料費も高く見積もるでしょう。支払う側としてその中身を知りたいです。
たとえば、燃料費を安く仕入れる努力はどうか等具体的内容を電力会社に質問しても「相手先や個別契約に係わることであり回答は控えさせていただきます。」と繰り返すそうです。
同じように人件費は?会社費用は何でどのように計算し、だれに支払っているのでしょうブラックボックスのようです。
経済学は素人の私ですが、それでも会社経営は材料費(燃料費)だけで左右されるなんて信じる訳はありません。例えば原発の維持・管理費とあれば納得できますが、内容を精査すると「基本料金」という項目が出てきます。これは電力会社間の料金の「やりとりだそうです。関西電力の場合、日本原子力発電(東海原発など保有し現在発電ゼロ)の北陸電力に毎年450億円前後支払っています。このような「基本料金」はすべて電力会社にあり予算に計上されている。
そうすると、維持管理費の名目で理解できないお金が使われていることになります。困るのは、専門用語や会社に都合のよい項目が使用されて、電気料金値上げに利用されることです。
(イ)電気料金は高い
日本の電気料金は事故前でもドイツイタリアに次いで高くアメリカの2倍、韓国の3倍近い。事故後さらに高くなっています。
なぜ高いのか?
おそらく燃料(石油価格)を100%輸入している日本だから高くて仕方ないと信じています。資源のない日本は石油輸入国としての宿命であり、これからも電気料金は高値で続くでしょう。
しかしそうだろうか?
電気料金はどのように決まるのか?
電気料金の仕組みを知ることによって燃料費だけでない仕組みをぜひ知ってもらいたいと思います。それで高いとか原発の是非、さらには電力会社の実態を知り判断してもらいたい。適正料金であれば原発可動も経済面だけでも納得するでしょう。
電気料金は「総括原価方式」という方法で決めています。
電気料金=燃料費+電力購入費+減価償却費+修繕費+人件費+その他の経費(広告費)+税金+事業報酬 (2013年5月関西電力値上げ資料より)
私は何回も書いていますが、経済学には素人です。それで解説してもらいました。その一つは事業報酬の内容です。それによりますと事業報酬とは会社では利益から利子や配当を出すことをいいます。利益がないと当然事業報酬はない。しかし、電力会社は始めから利益が出るようになっています。人件費も電力会社自身で決めます。そして、それら全てを含めて電気料金になる仕組みになっています。
同じように、他の項目の解説をしてもらいましたが、じつに巧妙に操作されていて電気料金に含まれていました。したがって本来ならば電力会社は絶対に経営にならないシステムなのです。ところが、原発停止のため赤字になりそれを理由に値上げ申請をし許可されてきました。
何故か?
専門家によると、燃料費高騰、原発維持費の確保、事業報酬の低下、発注、修繕費など従来のシステムに改革しないかぎりではどうしようもな要因が多すぎ制度疲労になってたのが原因とのことです。それに原発事故が重なり赤字申請になったようです。
値上げで回避しようとしている。
電力会社が原発事故後改革として人件費削減、広告費削減、寄付金廃止、施設売却などの改革を打ち出していますが、その内容は開示していません。これもブラックボックスです。
電気料金は燃料費だけで決まる訳ではなさそうです。
(ウ)底の見えないこれからの費用
―核燃料リサイクル費用と廃炉費用―
核燃料リサイクルは、使用済み核燃料を再処理してもう一度核燃料として使用しようとするものです。第2回の原稿にも書きましたが、再処理方法としてMOX燃料を使用するのと高速増殖炉(もんじゅ)として使用する2つの方法があることを書きました。
「もんじゅ」は廃炉と決まりましたが、それまでの費用約1兆円とこれからの廃炉費用も無駄になります。この高速増殖炉はアメリカでは1984年に研究中止し、イギリス、ドイツ、ロシア、フランスも重大事故を起こし中止しています。核開発の先進国が早々と断念しているのに日本だけが反対意見を無視して続行していました。断念したのは半年前ですからいかに決断が遅くムダ金を注ぎ込んでいたのがお判りでしょう。しかし、あきらめ悪い政・官・財・学の人達は研究開発という名目で予算はきちんと継続されています。
もうひとつの核リサイクル事業の再処理施設について述べてみたいと思います。
使用済み燃料の施設は青森六ケ所村にありますが規模が小さいのでイギリスとフランスに依頼して濃縮しています。(MOX燃料です)
この2カ国の施設維持や日本の核リサイクル事業継続のために濃縮したMOX燃料費は外国の言い値で買っている。2010年の推定値で1本1億から1億2400万のようです。
火力発電と比較することこれは高いのか安いのか?(1キロワット時)
LNGガス10.12円、石油14.89円、石炭8.9円、ウラン核燃料0.68円、MOX燃料5~6円(2013年4月関西電力値上げ資料から)
この資料からみると材料費と考えれば核燃料は一番安い。
ただ、原子力発電は材料費だけではない。独特の経費が必要になります。例えば、廃棄物の処理の経費等はほかの火力発電とケタ違いです。
その一つは通常の使用済み核燃料は保管場所と保管経費の問題。二つは再処理(リサイクル)で必要な再処理費用(核のゴミ)と最終処分費用と最終処分場選定と経費です。
たとえば、最終廃棄物(核のゴミ)はイギリスから送り返され時の1本の値段は1億2000万円になりました。(2013年3月資料より)イギリスからの核のゴミはこれからも返還されるのでその支払いは1000億円前後になるようです。
さて、日本の場合ですが、六ケ所村再処理工場は1993年に建設を着工しましたが、今も完成していないのです。原因は核処理の技術が難しく失敗続きで普通の工場建設と次元が違うようです。イギリス・フランスでは完成しているのに日本の技術はどうしたのでしょうか。
このため19回繰り返し、建設費も膨らみ当初の3倍2兆200億に膨らんでいるそうです。これからどの位お金がかかるのでしょう。
次は、廃炉事業です。
原発は一応40年稼働になっていますが延長もあるのですがいつかは廃炉になります。それで廃炉が決まっている原発1基の廃炉費用はどのくらい見込んでいるか調べてみました。(福島原発は除外)
2014年経産省試算で平均210億円と発表しています。この時の廃炉決定数は7基で規模もさまざまです。ちなみに7基は美浜1号、2号、高浜1号、2号、敦賀1号、島根1号、玄海1号でした。このうち2016年までに高浜1号、2号は運転延長申請し、東海原発1号は廃止予定です。
さらに、2013年経産省試算では50基すべてを廃炉にすると4.4兆円の特別損失が出て、北海道、東北、東京、北陸、九州各電力会社と日本原電の6社が債務超過に陥るとしています。
2016年日本原子力機構は東海再処理施設(東海村)の廃止に向けた工程を報告しました。それによりますと、廃止完了まで70年、当面の10年間に必要な費用は2170億にもなります。
このように廃炉事業の一部分を取り上げても膨大な費用が必要なことが理解できるでしょう。
もし、事故が起きた時の費用はどうなるのか
これまでは事故前の平常運転時の経済性を書いてきました。しかし、原発コストのほんの少しの部分です。まだまだ不思議な経費がたくさんあり調べれば調べるほど闇のような感じを味わいました。
さらに、事故が起きた時の費用は想定外で具体的な数字は思い浮かべることはできませんでした。しかし、福島原発事故後の費用を目の前に突き付けられると想像以上であり天文学的数字のような気がします。また、避難生活の大変さや除染作業、汚染水処理、風評被害、損害賠償請求などを知るといかに原発事故は恐ろしいものであるか実感しました。
2017年政府は福島の事故の損害賠償や廃炉費用は21.5兆円に上ることを明らかにしました。国の新年度予算の2割を超えます。しかし、これで済む保証は何もありません。もし、つぎの原発事故が発生したらこの国はどうなるのでしょうか。次世代にツケを回すのでしょうか。
(エ)あとがき
2の視点、経済性について私見として書いてみましたが、とても難しく感じました。まだまだ未熟でここに掲載するような立場ではないことも実感しました。経済用語と会社用語、官僚用語と政治用語、業界用語、原子力用語と技術用語など入り乱れて頭をするのに苦労し理解したとはとても言えません。
ただ、私の書いた文章が問題になり関心を持ち続けていただければと思います。厚かましくも書きますのでよろしくお願いします。