小野 晴巳(地球冒険学校準備会顧問)
今まで連載で6回記事を書いてきました。原発については書くことあり過ぎて正直いえばキリがない。次から次へと話題がでてくるのです。例えば、新聞記事でもこんな状況です。2018年5月1日から5月15日までの半月間ですが…
(1)日立、英政府に原発建設に支援策要請、
(2)一生抱える原発事故による苦しみ(読者投稿)
(3)経産省「エネルギー基本計画案」提示。原発と石炭火力発電を基幹電源と位置づけ
(4)三菱重工、トルコ原発計画難航中
(5)東電手探りの「再生可能エネルギー等」の新規事業模索。
(6)米・MOX燃料工場を、核製造施設に転換する計画発表。
(7)原発再稼働「西高東低」。6月まで5原発9基すべて西、東はこれから。
等々。
このようにこれからも永遠に原発関連ニュースは続きますので、私の記事は今回で最終回としたいと思います。そこで、いままで賛成・反対論の根拠として述べていた私の6項目から少し離れて、2つの観点「その1 福島原発事故は予告されていた」「その2 なぜ原発立地の新設が難航しているか」の2点から紹介したいと思います。
1、予告されていた福島原発事故
2011,3,11の福島原発事故を1997年に同じ原因、原理で起きることを予告した論文がありました。
1997年雑誌『科学』(岩波書店刊)に石橋克彦神戸大教授が「原発震災」として発表しています。「震災」という言葉をすでに使用していることに驚かされます。モデルは「浜岡原発(静岡県御前崎市)」についてですが、内容は現実に起きた福島原発の原囚や原理と全く同じです。
『東海大地震により地盤破壊と津波に襲われると警告する。その結果、電源が喪失し冷却水も失われる。炉心融解、水素爆発まで起きて放射能が放出される。社員のパニック。動員体制も混乱し、住民避難も想定し終息困難になるだろう』と警告していた。
この論文に対して当時の原子力推進派の学者はどのように反論していたのか。
原子力安全委員会(当時。現原子力規制委員会の前身)の班目春樹委員長は
(1)原発は二重、三重の安全対策がなされていて安全に停止できる。
(2)火災など起きる根拠がわからないし、原子力工学的には起こらない。
(3)津波対策は十分に行っている。
(4)石橋氏は地震学者であり、原子力学会、原子力工学の分野では聞いたことがない人だ。
として、原発は多重防御をしているという「安全神話」を繰り返し、石橋氏を「非専門家」とレッテル貼りしている。他の原発推進派の著名学者も基本的立場を同じくし、石橋論文を非難していた。この構図は今も変わりません。原子力村といわれる権力集団は都合悪い論文や人物を排除する論理です。
2、なぜ原発新設が難航しているのか
日本の原発は既存の原発再稼働さえ難しくなっているのが現状ですが、1990年代にすでに原発立地の行き詰まりを指摘している論文もあります。それを紹介しながら、原発再豚働に反対をする人びとの背景を考えてみたい。この論文は中立的立場で書かれたものです。
(1)利権構造の変化-実力者の弱体化、産業構造の変化(土木国家は昔のこと)、
(2)社会資本整備の充実ー道路や施設などすでに完或している。
(3)価値観の多様化ー情報が多く開発派、環境派など一元化が難しい。.
(4)政府と電力会社の責任分担が不明瞭。
(5)立地手続きの複雑さー政治家の思惑、暗躍 等々。
この様に1990年代さえ原発新設はほぼ絶望的でした。それに裁判闘争も起こされていました。福島原発事故を経験した今日では、ますます困難です。万が一新設を進めるとすれば、強引な手段とそれに反対する抵抗勢力との闘いが激化するのは間違いない。
それがわかっているだけに再稼働に力点を置くしか電力会社に方法はないのです。そこでもう一度私なりの6項目を提示しますので判断していただきたい。
3、原発再稼働の判断のための6項目(6項目は私個人の考えた6項目です)
(])安全・安心か
(2)経済的に安いのか
(3)政・官・財・学の利害関係で推進されてきたのか
(4)地域住民・地域経済に役立っているのか
(5)外国事情をどのように理解しているのか(事故原囚対策、地球温暖化対策、再生可能エネルギー政策、廃炉問題、撤退理由等々)
(6)原発の将来像、または未来像を想像できるのか
皆様もこのような項目を考えて自由に発想すると、面白い発見があるかもしれません。
私が今回まで原発について書いてきた動機は2つです。福島原発事故により今まで信じていた「原発はいかなるものより安い」「原発は絶対安全という安全神話」の2点がガラガラと崩れたことにあります。
調べてみると「安い」というのは原発の一部分(燃料費とその関連費)を取り出した経済的カラクリであり、原発全体像(土地取得から廃炉や最終処分場まで)からみると「安くはない」し、「安全神話」も「原子力という物理学的理論(原子レベルより原子核や素粒子レベルを人間が扱う分野)や工学的理論(原子段階の材料で建築する分野)」から考察すると現在の科学技術では無理があることがわかります。将来の夢としては素晴らしい領域ですが。
それでも原子力産業(原発や核武装などを含めて)は政・官・財・学の立場を含めて国の利害関係が密接に絡みあって発展してきたのです。それだけに、判断は石油危機とか電気代値上げなどの現実に左右されるので難しいのです。
すべて物事には一長一短がありますが、原発賛成・反対にしても冷静に判断して欲しいと思います。
4、原発の将来はどうなるのか
最後に原発は将来どうなるのでしょうか。外国を見ても、新設する国もあれば廃止・撤退する国もあります。これも私ごとき者には手に余る課題です。しかし、賛成・反対にしても現実だけ凝視して将来は次世代にお任せという訳にいきません。それほど原発は重大な宿題をを抱えているのです。例えば
ウラン調達(いわゆる安定供給)は大丈夫か
廃炉作業は順調に進行するのか
原子力関係の専門家・研究家は育成されるのか
最終処分場は決まるのか
再生可能エネルギーと競争できるのか
少子・高齢化社会に向かって電力消費量減少対策は
負の遺産(放射能、廃炉、事故賠償、などの予想できない経費)の発生 等々
原発の将来について少し具体的に考えてみます。
(1)プルトニウムをどうするのか?
再稼働した給果、増々増えるプルトニュウムを日本はどの様にしたいのか。日本は商業用燃料としてMOX燃料や高速増殖炉(もんじゅ)の使用を提案し、国際原子力機構(IAEA)から承認されている。しかしこの方法は暗礁に乗り上げているのが現実です。この方式をしている国や企業はない。増えるプルトニュウムを核武装に使用するのでしょうか。
(2)使用済み核燃料をどうするのか?
使用済み核燃料は現在各原発内のプールと六ケ所村の施設内で冷却されながら保管されている。各保管場所も満杯になりつつあり、次の保管場所を探さなくてはならない。「保管規定集」は存在するが、責任分担も保管期間も明確でなく、事故の所在も国の関与もあいまいである。
(3)最終放射性廃棄物をどうするのか?
現在六ヶ所村埋没センターが1ヵ所あるが、他の保管場所は未定。廃棄物処分場問題としてよく言われる「トイレなきマンション」のことである。
原発推進派は
「ガラス体等で包み安全にして30~40年間保管貯蔵し、さらに数年かけて順次地下埋設し300年間監視する」として「技術的に問題なくむしろ社会的・国民的合意形成のみである」として解決済みを主張する。
反原発再稼働派は
「技術的に未熟・未開発である。1O万年間安全に保管する技術や材料など発明されていない。地震を含め自然災害の多い目本に安全に10万年間保管できる地下などない」として未解決を主張する。
まだまだ数え切れないほど課題が上がってきます。これらを我々世代がどれほど責任を特って次世代に引き継ごうとしているのでしょう。
その解決策の一つとしてここで参考までに『原発ゼロ法案』を紹介します。
「原発は極めて危険であり、高コストで、使用済み核燃料の最終処分も見通しがたたない。原発による発電量は全体の1%(2015年)にすぎず重要性を失っている。として廃止する」としています。
そして「自然エネルギーの比率を2030年に50%、2050年に100%と目標を決めています。」「具体策として政策・自然エネルギー活用法」を提案しています。
これを原発推進派は『亡国基本法案』とし、論評しています。すなわち、「今、廃止することは現実離れであり、石油輸入量増大し経費増、地球温暖化に逆行、電気代高、などになる」と非難している。この両論のどちらかをどのように受け止め、かつ、選択するかは将来の日本の方向性を決めることにもなるでしょう。
5、学んだこと(最終回にあたり)
今まで原発について自分なりに学んできましたが、改めて振り返ってみます。
(1)原発問題「見て話し合う会」に参加―主催さよなら原発・東大和2012年から行動している会で、駅前活動、DVD視聴、放射能廃棄物、事故処理コスト、チェルノブイリ原発の現状、廃炉問題など話し合う会
(2)「東大和から放射能不安をなくす合」参加―放射能汚染から命と健康を守る会
(3)脱原発・東電株主運動に賛同―40年前に取得していた100株がこのような形で活用されるとは夢にも考えていませんでした。
(4)「原発ゼロ基本法案」学習合に参加―2018・3・9に野党4党によって国会に提出された法案です。講師として各党の衆議院議員・都議会議員・市会議員の皆さんによる法案説明会と質疑応答の会でした。
(5)国道6号線を北上し福島原発事故の現場を通りました。全面開通した6号線は(地元ではロク国と呼んでいるようです)いまでは放射能は問題ない位の検出値です。被災他の宮城県、岩手県の三陸海岸には何回も訪問しています。原発地は初めてでした。今度は施設内を見学したいと思います(申し込めば見学できるようになりました。日時は指定されます)
(6)会員の方から「この福島原発事故や原発再稼働の論議は沖縄の基地問題と似ているね」と声をかけられました。私も同感です。
以上、このようにいろいろな方と議論してきましたが、本当にありがたかったです。社会の複雑さ、多様性の重要性、表現の自由、個人の尊重など学ばせていただきました。将来の日本もこのように自由に自己主張でき、意見を尊重できる国であってほしいと思います。