なめとこ山 会報62号



第58回

信じているのは、何ですか?

 皆さんこんにちは。今年もあとひと月ほどになりましたね。今年は、平成から新しい令和という時代になりましたが、自然災害も多くて、また自分としても高校1年生の担任の仕事についてと、大変目まぐるしい1年であったように実感しています。皆さんにとっては、どんな1年だったでしょうか。

 ところで私はちょうど今、高校生の国語の授業で「徒然草」を教えています。皆さん、覚えていますか。「つれづれなるままに 日暮らし硯に向かひて 心にうつりゆくよしなしごとを そこはかとなく書きつくれば あやしうこそものぐるほしけれ」と兼好法師が書いた随筆です。今回の「なめとこ山通信」は、兼好法師をまねて(と言っても、「あやしう ものぐるほし」の境地にはなれませんが。)今、心に浮かぶ今年の出来事を「そこはかとなく」書いてみたいと思います。(つまりは、いつものようにダラダラと書きますよ、と言うことです。)お時間ありましたらお付き合いください。

 先ほども書きましたが、今年は大きな自然災害がありました。振り返りますと、熊本や北海道では今年も大きな揺れの地震を記録しています。夏は九州北部で大雨、9月・10月には台風と大雨により広い範囲で甚大な被害が出ました。未だに避難生活を余儀なくされている方々もいらっしゃるようです。被災した方々や地域の、回復と復興を心からお祈り申し上げます。今年の異常気象は、(地震はまた違いますが、)やはり地球温暖化が一因となっているのでしょうか。東京の夏の猛暑のせいで、オリンピックのマラソンは札幌で行われることになってしまいました。来年の夏も猛暑だったり、夏に台風の直撃があったりしたら、東京でのオリンピックはどうなってしまうのかなと思ったりします。それでも私たちは、なんとかなるんじゃないかなという、不思議な感覚で2020年を迎えようとしてはいないでしょうか。「50年に一度の大雨」という決まり文句をあまりに頻繁に聞かされて、なんだか「あぁ、またか。」という気持ちになってはいないでしょうか。オリンピックの年に令和の関東大震災があるなんて、まさかね・・・と。もちろん、私にはわかりません。地球温暖化を画期的に解決する方法も、暑い夏を涼しくする方法もわかりませんし、地震を予知することも、台風の発生を減らすことも出来ません。ただ、日常生活で出来る些細なこともあるような気はしています。

 今年の9月、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16歳)が、国連の気候行動サミットで次のような演説をしました。
 「私たちは大絶滅の始まりにいる。それなのに、あなた方が話すことと言えば、お金や永続的な経済成長というおとぎ話ばかりだ。よくもそんなことを!」

国連.jpgそれは、怒りと涙の演説でした。そして、賛否様々な反響を呼んだのです。私は、自分がトゥンベリさんに叱責された側の人間であることを感じました。その後ようやく、自分には何が出来るだろうかと考えたりしたのでした。

 皆さんは、SDGs(エス・ディー・ジーズ)という、17の目標をご存知でしょうか。それは、2015年の国連サミットで採択され、国連加盟国が2030年までに達成するようにと示された目標「Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)」のことです。17の目標は例えば、1,貧困をなくそう 3,すべての人に健康と福祉を 6,安全な水とトイレを世界中に 7,エネルギーをみんなに そしてクリーンに 13,気候変動に具体的な対策を 等々です。壮大な目標ですが、今、世界中がこれらの目標達成に向けて様々に取り組んでいるのです。ちょっと検索して、17の目標をチェックしてみてください。私も今年になってようやく、このSDGsというものを知りました。SDGs関連のワークショップにも参加したりしてきました。そうして、トゥンベリさんの演説を聴いた時と同じように、では自分には何が出来るかと、少しずつ考えるようになったのでした。

 さて、今年の出来事は、自然災害のニュースだけではありません。他にも、後ろ向きな、と言いますか、暗いニュースがたくさんありました。相変わらず多発した暴走車による事故では、幼い命が失われました。また、あおり運転のニュースも印象に残っています。これだけニュースになってもあおり運転がなくならないのは、それだけ、自分さえよければという自分本位な人がいるからでしょうか。さらに、理不尽な暴力行為によって一度に多くの人が傷付けられ命を奪われたというニュースも、5月に川崎で、7月に京都でありました。私が思ったことは、(自然災害でもそうですが)日常は、突然奪われてしまうことがあるのだ、ということでした。安全・安心な暮らしが続くという日常が、実はおびやかされているのです。例えば、NHKの大河ドラマに出演していた俳優やこれから出演する俳優の中から、二人も麻薬取締法違反者が出たり、他に税金の申告漏れをしていた者もいたりという不祥事がありました。つまらないことのようですが、あの人もあんなことをしていたんだという残念な思いがぬぐえません。それらが私たちの知らない世界での出来事であっても、実は私たちの普段の生活の中にも、これくらいはいいんじゃないか、俺は大丈夫、私は関係ないという、驕りや気の緩みが浸透してきていることが遠因して、今までにはなかったことも起きているのだと推察するのは杞憂でしょうか。確かに、ある特殊な事例だけをいくつか取り上げて日本全体がそうなってしまったと嘆くのは、早まったことではあると思います。でも、平成から令和の時代になって、日常は安全・安心で、暮らしは豊かになったと実感している人が、果たしてどれくらいいるでしょうか。消費税が10%になったのも、私たちにとっては些細なことではありませんでした。そうして、お金を持っている人はさらに豊かになり、貧しい人はさらに苦しい生活を強いられるというからくりが、だんだん実感としてわかってきたのが、令和の時代の出来事ではなかったでしょうか。(・・・気付くと、トゥンベリさんの言うとおり、私の話題はお金のことです。)

 なんだか愚痴を並べて、悪いニュースばかり書いてしまいました。本当は、今回は何のネタで書こうか、今年話題になったことにでも触れようかなと考えていた時に、私の頭にまず浮かんだことは、天皇陛下の即位にまつわる一連の行事のことなのでした。と言いますか、みんなが何だか温かいお祝い気分になれたこと、即位礼正殿の儀のあの日に東京に架かった虹のこと、日本人としての自分のこと、なのでした。今年の出来事の1番は、やはり、平成から令和の時代になったこと、ではないでしょうか。長かったGW、5月1日に何だかソワソワワクワクしたこと、あの時、自分は日本人なんだなぁって思いませんでしたか。私は特に主義主張があるわけでもないのですが、日本人としての自分のことを思ってみたりしたのでした。先日、天皇陛下が伊勢神宮へ行かれていました。私はまだ、伊勢神宮を参拝したことがありませんから、いつかは行ってみたいと思いました。と同時に、自分が日本人であることを思うと、伊勢神宮よりも出雲大社の方への興味関心が、ムクムクと湧いてきています。それはたぶん、縄文人としての自分の血が、そうさせているのです。少し前の会報で、私が縄文時代のことを書いたのを覚えていらっしゃるでしょうか。伊勢神宮、日本書紀、弥生人とに関係する日本のルーツと、出雲大社、古事記、縄文人とに関係する日本のルーツの違いに、私は今大変関心を持っています。今回は、今年を振り返るということで書き始めたので深くは触れませんが、いつかまた機会を設けて、そのことを書いてみたいと思っています。今回、タイトルを「信じているのは何ですか」としたのは、初めにイメージした天皇陛下の即位関連のことから、日本の古い神様のことに関心が移って、自分が信じるところは何がルーツだろうかと考えたからなのでした。
 でも、タイトルはそのままにしてみました。そうして、今年の出来事とその問いを重ね合わせてみました。私たちの安全・安心な日常がこのまま続くことは信じられるでしょうか。経済成長は信じられますか。私は、ラグビーワールドカップを観戦していたときには、日本代表の勝利を信じていました。来年オリンピックが始まったなら、日本の代表選手たちの活躍を信じる自分の姿が、今からありありと目に浮かびます。今年の天皇陛下の即位関連のニュースについては、欧米諸国も関心を持って報道していたようです。彼らは、多くの日本人が神道を信じていると報道したでしょうか。まだ若い時、外国を旅していて私はよく、「あなたは何を信じていますか」と尋ねられました。宗教のことを聞かれたと思うのですが、時には「I am Buddist.」と無難に答えたり、時には「I believe in the mountains.」とはぐらかしたりしていました。あの頃の私は本当に、遥かに聳える山々と、山を登る自分とを信じていたと思っています。さて、新しい令和の時代に、自分は何を信じているのでしょうか。
 私は、明日が来ることを信じています。私たちは大絶滅の始まりにいるのかもしれませんが、私は、人の叡智も信じています。